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飲みすぎないように文章を書く

あの娘は夏コミ焼け――あるいは平成腐女子のコミケの思い出

世間はもうすぐ夏休みだ。

「学生は夏休みが長くていいなあ」と言う社会人は多い。たしかに私も「1ヶ月くらいぱーっと休んでどっか行きたい」と思うこともときどきある。

しかし、自分が学生時代、その長い夏休みに有意義なことをしていた記憶がまったくないので(というか有意義どころか無意味なことをしていた記憶もほとんどないので)、あまり夏休みに執着がない。

そんな鳥頭かつズボラな私だが、毎年かかさず夏休みに参加しているイベントがひとつある。

そう、夏コミです。

もはやご存じの方も多いと思うが「夏コミ」とは日本最大規模の同人誌即売会コミックマーケット」(コミケ)の夏に開催される場合の通称である。コミックマーケットは毎年末にも開催されており、こちらは「冬コミ」と呼ばれる。もちろん私は冬コミにも毎年参加しているが、なんとなく思い入れが強いのは夏コミのほうだ。それは、夏コミのほうがより過酷な天候のなかでの戦いとなるため、逆に乗り越えたときの達成感が強いからかもしれないし、一番最初に参加したのが夏コミのほうだったからかもしれない。

私が初めてコミケに参加したのは、中学2年生の夏、2003年8月の夏コミである。

コミケは毎回だいたい3日間開催され、日にちごとに出展するサークルのジャンルが分けられている。

今でこそどっぷりと腐女子な私が、最初の夏コミで参戦したのは3日目で、主にまわったのはジャンル「創作(少女)」だった。

これは、版権もののパロディや二次創作ではない、完全オリジナルの「創作少女漫画」の意味で、漫画だけでなく、イラスト集など、さまざまな「少女漫画」をリスペクトする作品が売られる。ちなみにオリジナルBLを表すジャンル「JUNE」も少女漫画をリスペクトしているとは言えるが、ジャンルとして区別されている(やはり3日目に配置されることが多いけど)。

そして今でこそ男同士に大方の時間と金をさいている私だが、りぼん、なかよし、花ゆめ、LaLaといろいろな少女漫画誌を渡り歩いていた当時は、「かわいい女の子」「かわいいもの」に夢中になっていた。女の園に入学したところ3次元のリアルJCなどというものは(私ふくめ)見た目も中身も発展途上でなかなかに小汚いものであったので、そこからの現実逃避的に、2次元の「かわいさ」を追い求めていたのかもしれない。

学校の同級生で、大変かわいい女の子のイラストを描く、コミケリピーターな友人に誘われ、彼女がまわるサークルをいろいろ参考にしながら、創作(少女)の数サークルをまわることにした。

かわいい二次元の女の子を求めているのは自分と同じ「少女漫画好きの女の子たち」だと考えていた私は、会場に行って衝撃を受けることになる。

当然だが、辺り一面男・男・男。

3日目の男性率はコミケ3日間のなかでもめちゃくちゃ高い。待機列はまだよかったのだが、開場し、館内にはいると、待機中に彼らがかいた汗が館内いっぱいに充満しており、めちゃくちゃクサい。150㎝くらいの身長だと、男の山に埋もれてしまい、匂いはさらにキツい(まあ私も匂いのモトの一人ではあると思うが)。みんなTシャツで、しかも満員電車のようなすし詰め状態だから、汗だくの素肌と素肌がふれあってそれもまた気持ち悪い。しかし、誰ひとりそんなことには頓着せず、黙々と思い思いのサークルを目指している。初参加の小娘であろうと、自分の身は自分で守るしかない。もみくちゃにされながら、なかば放心しつつ、目的地へとひたすらに進んだ。

そうしてたどりついた目的のサークル。テーブルの前にできた行列の最後にならぼうとすると、スタッフに止められる。そのボードには「ここは最後尾ではありません」と書いてある。「最後尾」ボードの存在は知っていたが、「最後尾ではありません」ボードなどがあるとは、この日このときまで知らなかった。列が長いので途中で区切って、人の通行に支障がないようにしているのだ。

「すごいな〜」と思いながら、館外にあるという続きの列のほうへ誘導されていくと……「えっ、これ入場待機列じゃないの?」というレベルの長蛇の列が待っていた。軽く1、2時間は待ちそうな長さだ。もちろんここも男だらけ、女は私ひとりであった。

もちろん、すべてのコミケ参加サークルにこのような長蛇の列ができるわけではない。購入列が館外にまで形成されるのは「シャッター前」と呼ばれる超人気サークルぐらいである(購入列を館外にはけさせるために人気サークルはビックサイトのシャッター前に配置されるがゆえにできた通称である)。

しかも、そのとき私が行ったサークルの名前は「富士壺機械」。サークルメンバーの一人はいとうのいぢ。そう、国民的大ヒットをとばした『涼宮ハルヒの憂鬱』の絵師さんである。2003年8月の時点では、まだ「ハルヒ」人気はそこまでではなかったが(1巻が発売されたのは2003年6月)、すでにエロゲ絵師としてのいとうのいぢさんの名声は世にしれわたっており、「1人1限」(※)のかかる超人気サークルであった。

※1人各同人誌を1部しか購入してはいけないという制限のこと。できるだけ多くの参加者に本がいきわたるように&転売防止のためにもうけられる。「1人3限」とかもある。転売屋でなくとも仲間内で手分けして同人誌を買う人もいるので、この限定はけっこう厄介。

じつは、「創作(少女)」は少女漫画的作品を扱うジャンルなのだが、参加しているサークルにはエロゲなどのイラストレーターさんがとても多いのである。当時「ザ・スニーカー」を読んでいて、「ハルヒ」からいとうのいぢさんを知った小娘は、その列のすさまじさに大いにおののいたものの、ここまできたら並ぶしかないと腹をくくり、なんとか目当てのイラスト集(それはケータイ電話をモチーフにした少女イラスト集、非18禁)を手に入れたのであった。

とてつもない暑さと汗臭さと男まみれさに心くじけそうになった初コミケだったが、小娘はそこで懲りずにコミケに参加しつづけ、今にいたる。途中気づいたら購入するジャンルの中心が女性向けの二次創作やオリジナルBLに変わりながらも、毎夏・毎冬、かならず1日は有明に向かってきた。

ぶっちゃけ、大手同人サークルのほとんどは、新刊通販を「とらのあな」などの同人ショップに委託するので、コミケで買い逃した本も後から手に入れることは結構できる。私が一度にコミケで使う金額はせいぜい1〜2万円なので、ビックサイトまでの交通費や、猛暑や大雨、雪のなか何時間も並び続けるコストを考えたら、通販したほうが安い。

また、個々のジャンルのオンリーイベントに行ったほうがよほど潤沢に戦利品が手に入ることもある。というのも、コミケの申し込みは開催の何ヶ月も前に行わないといけないので、開催時点で盛り上がっているジャンルがコミケの配置には含まれておらず、本が出したくても出展していないサークルが多かったり、仮に本を出すとしてもほかのジャンルで登録しているスペースで販売することになるため、それぞれのサークルが突発的に出す同人誌情報をあぶりだし、決死の思いで島中(※)をめぐる羽目になったりするからだ。

コミケのサークルは基本机をかためた「島」に配置される。島のはじっこの目立つ部分を「お誕生席」、それ以外の部分を「島中」と呼ぶ。

それなのになぜ私が雨の日も風の日も猛暑の日も雪の日も大学受験の直前もかかさず、12年もコミケに通い続けているのかといえば……

もう「そこにコミケがあるから」としか言いようがない。

いつ終わるともしれない待機列のなかほかの腐女子グループが熱弁しているCP妄想に耳をかたむけたり、東ホールを総ざらいして西ホールへと移動する完璧な購入プランを考えたにもかかわらず買い忘れがあってほうほうのていで戻る羽目になったり、「最後尾」札を持ったまま戦利品を読み始めてしまい新しく列に加わった人に2,3度声をかけられるまで気づかなかったり、別々に回っていた友人が買ってきた「小泉純一郎選挙演説レポ本」を爆笑しながら読んで販売列でひまをつぶしたり、あこがれのサークルの黄黒コピー本が自分の目の前で売り切れてしまったのが諦めきれず閉会時間まぎわにスペースに行ってコピー本の表紙絵が貼ってある「最後尾」札を譲ってもらったり、友人のサークルの売り子を頼まれたのにサークルチケットがあるからとのんびりしすぎてサークル入場時間ギリギリになり半泣きで東京駅からタクったり、売り子2年目に差し入れに来た友人の彼氏が売り子1年目に差し入れに来た友人の前の彼氏とそっくりだったことに驚いたり、「黒バス」脅迫事件で一切の「黒バス」本が頒布できなくなった冬コミ2日目に何も買うものがなくなってしまったにもかかわらず参加してガラーンとした黒バススペースをひたすらながめたり……。

とにかくそういうものの集合体が「コミケ」というイベントであって、目当ての本が手に入ろうと入らなかろうと、目当てのジャンルがあろうとなかろうと、全然楽しいのだ(そりゃあるほうが楽しいけど)。

そして12年目の夏コミで、ついに私も、これまでのコミケでは一度も手を出していなかったことに挑戦することになった。

そう、サークル参加です。

1日目である15日(金)、「東6ホールソ47a STYLE FIVEファミリークラブ」で新刊を用意してお待ちしておりますので、アニメ「Free!」や男性アイドルにご興味のある方、1日目にほかにお目当てがあるのでひやかしに行ってやるか〜ってな方、どうぞお越しいただければ幸いです。

 ※これは2014年に書いたものです。同人誌はおかげさまで完売しました!