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いつもの料理を、ひと味変えて? シェフ=キュレーターの技にむせび泣く「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展

箱根に来ています。

「仕事を忘れて温泉旅館でのんびりしたい……」というのが最初の動機だったのですが、美術館密集地帯である箱根では、興味惹かれる企画展もあれこれやっていて、1日目である今日はポーラ美術館に行くことに。

 

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1月にも一度訪問し、とても気に入っていたポーラ美術館。山の緑に囲まれていて、建物そばにひろがる遊歩道にも、彫刻などが置かれています。前回は雨だし冬だしでとても寒かったのですが、今回は天候にも恵まれ、ガラス張りの建物がなおさら映える映える。


鑑賞したのは、8月1日から開催している「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展。

bijutsutecho.com

 

サブタイトルから、巨匠のアートと、現代アートをコラボレーションさせる試みなのだというのは察していたのですが、すごかった……。

 

たとえば、館内に水色のプールをつくりだし、そこに無数の白い器をぷかぷかと浮かべて、器どうしの響きを楽しむ作品(セレスト・ブルシエ=ムジュノの《クリナメン v.7》)にあわせて、モネの《睡蓮》を飾ったり。

 

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クリナメンは撮影禁止でしたが、上に貼った美術手帖の記事で写真が掲載されています。

 

たとえば、15年以上アラスカに通い一人カヌーをこいで氷河の写真を撮り続けてきた日本人写真家の作品(石塚元太良《Middle of the Night》)のなかに、ルネ・マグリットの《前兆》をしのばせたり。

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そして、鏡とガラス板を無数にくみあわせたアート作品(アリシア・クワデ《まなざしの間に》)の奥に、サルバトール・ダリの《姿の見えない眠る人、馬、獅子》を配置し、観るもの自身の立ち位置さえも失わせるような、幻惑の世界を作り出したり……。

 

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ただ蓮の絵同士を並べるとか、ヌードの系譜をたどるとか(横浜美術館のヌード展は素晴らしかったですけど!)、そういうオーソドックスな発想ではなく、一つ一つで観たら絶対むすびつかないようなふたつ(あるいはそれ以上)を、確信をもった手つきで、大胆に、しかし繊細に、同じテーブルに乗せて、「どう?」「いいでしょ」とやってくるような企画展で、しかもそれが決して押し付けがましくも必死でもない軽やかさで、とってもとっても最高でした。部屋をうつるたびに「う〜〜ん!(感嘆)」とうならざるをえなかった……。まるでNOMAやエル・ブジといったイノベーティブ・フュージョンの名店で、シェフ渾身の新作コースを食しているような、新鮮な体験だったのです。

 

楽しみにしていた割に(笑)展示説明や関連記事を大して読まずに現地に赴いたのですが、驚いたのが、飾られていた「巨匠」サイドの作品に関しては、すべてポーラ美術館がもともと所蔵しているものだったということ。たしかに1月にコレクション展を観たときに、目にした記憶があるものもあるような……。膨大な西洋絵画だけをだーっっと観るのも、それはそれで醍醐味でもあるのですが、どうしても「ちょっとお腹いっぱいです」となって、一つひとつの印象が薄れてしまうところ、今回の企画展では異種格闘戦によって、現代アートも心に残るし、歴史的名画のほうも、くっきりと印象に残る構成になっていて(展示点数としてもちょうどよかった)、しかも一部屋一部屋まったく印象が違うのもあって、空間をふんだんに使い、最後まで胃もたれさせないフルコースになっていたなあと思います。

ちなみに併設のレストランでは、展示にあわせた特別コース「シンコペーション」が食べられます。これも可愛くて美味しかった!

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さて、ここまで料理にたとえてしまいましたが、展示のメインタイトルである「シンコペーション」は音楽用語。日本語では「切分法」と訳されていて、強い拍と弱い拍の位置を通常と変えて、リズムに変化を与えることらしいです。おのおのの歴史のなかで、それまでとは違ったリズムを刻んできたアーティスト同士を、時代をこえてくみあわせることで、さらに新しいリズムを生み出す……というような意図があるのかな。

公式キャプションでも、音楽にたとえるような言葉遣いが多く、また、遊歩道では、スーザン・フィリップスというアート作家による音楽インスタレーションが行われていました。

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開館以来初となる現代美術の展覧会とのことですが、ほんとうに、企画したキュレーターさんに「ありがとう〜〜!」とスタンディングオベーションを送りたい気持ちになりました。

あと石原元太良さんの氷河写真、アラスカのゴールドラッシュ廃墟写真がとても良くて、本を買った。

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ぜんぜん素人鑑賞者なのですが、だからこそ、いろんな作家さんとの出会いがたくさんあるなと楽しみです。