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It all depends on the liver.

飲みすぎないように文章を書く

アウシュヴィッツには別に何もなかった

自意識

もう半年以上経ちますが、転職のための有給消化期間を使って、2015年11月にポーランド・ドイツ旅行に行ってきました。


一番の目当てはアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所の見学。

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中学生のころ『戦場のピアニスト』を観て衝撃を受けてから(なんかロマンチックな映画と勘違いしていたので、ユダヤ人のおじいさんが車椅子ごと逆さまにベランダから落とされるシーンで衝撃を受けた)、ぼんやりとナチスドイツとその戦争犯罪について関心を持っていました。

中高がプロテスタントだったせいか、道徳の授業のかわりに「聖書」の授業というのがあり、そこで『荒れ野の四十年』原著を読む課題があったり、個人発表のテーマで『夜と霧』を割り当てられたのも大きかったかもしれません。

また、当時、唐沢寿明主演の『白い巨塔』にハマったところ、そのなかで唐沢演じる財前が学会出張の折りにアウシュビッツに立ち寄り、自分の犯した罪について考えるきっかけを得る、という回があり、それもとても印象に残っていました。そのため死ぬまでに一度でいいからアウシュビッツに行ってみたいとずっと考えており、有給消化の海外旅行に行くことを決めたとき、それを実現することにしたのでした。

 

とはいえ、アウシュヴィッツ自体は1日あれば見学できてしまうこと、日本からポーランドへの直行便はないこと、というか人に同行してもらうんだから多少は観光地にも行かんとな……ということで、フランクフルト→クラクフミュンヘン、というふうに、ドイツとポーランドをサンドイッチすることに。

 

以下のようにいろいろ回ったのですが、まあ今回はアウシュヴィッツの話を。

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1〜3日目 フランクフルトに滞在
ケルン:ケルン大聖堂

ザールブリュッケン:フェルクリンゲン製鉄所

マインツ:サンクト・シュテファン教会、グーテンベルク博物館

4日目:フランクフルトからクラクフへ移動

5〜7日目:クラクフに滞在

クラクフ市内:聖マリア聖堂、織物会館、カジミエーシュ地区

ヴィエリチカ:ヴィエリチカ岩塩坑

オフィチエンシム:アウシュヴィッツ博物館

8日目:クラクフミュンヘンに移動

9〜10日目:ミュンヘンに滞在

ミュンヘン市内:ピナコテークめぐり

ノイシュバンシュタイン城・ヴィース教会

11・12日目:帰国

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というわけで、感じたことなど備忘録的に。

 

1)めっちゃ田舎にあるが、自力で行ける

アウシュヴィッツがあるのはポーランドの「オシフィエンチム(Oświęcim)」という場所です。お、覚えにくい……んですけど、そもそもアウシュヴィッツというのもオシフィエンチムのドイツ語読みらしいです。

ポーランド語わかんないしクラクフワルシャワからツアー出てるからそれを利用する!というのでも全然いいと思うのですが、クラクフからなら電車やバスを使って1時間半程度でアクセスできます。ツアーだと400PLN(12000円くらい?)するみたいですが、自分で行くなら往復15〜20PLNくらいで済みます。ちょっとした小旅行感も味わえるのでお得です。

ただ、バスや電車は運転間隔がかなりあいており、終電も早いです。駅と博物館はけっこー離れているので、行きはバスだけど帰りは電車みたいな調子こいたことをやると、だだっぴろい(マジで広い)オシフィエンチムの街で遭難し、誰に道を聞いても英語が通じず、こちらが道を聞いているのは伝わっているらしいが回答の意味がわからず、あやうく最後の電車を逃して凍死、みたいな事態に陥ります。私です(ホント〜〜〜〜に死ぬかと思った……息切れするくらい走って死ぬ気で飛び乗りました)。

あと、ワルシャワからの電車はなかなか治安が悪いらしいので、あまりおすすめしません。

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2)事前に日本語ガイドさんを予約できる

アウシュヴィッツは博物館ではありますが、観光地ではありません。これは実際に収容所に入っていた方の遺族などにとっては「墓地」だから。なので基本的には入場料は無料なのですが、オーディオガイドや在籍している専門のガイドさんに案内をお願いするとガイド料が発生します。

ガイドを頼むには、当日申し込みやサイトからの予約などいろいろあるみたいですが、わたしの場合、日本でちらちらと調べているときにアウシュヴィッツ博物館に在籍している唯一の日本人ガイドだという中谷剛さんのことを知って、事前に直接メールをさしあげ、お願いしました。公式ガイドで時間も決まってるけど個人申込が可能ということなのかな……。ガイド料は、その日の参加人数にもよるらしいのですが、そのときは100PLN/25ユーロでした。

これは博物館の類の入場料と考えると高いかもしれませんが、もし本当にアウシュヴィッツに興味がある方がいたら、ぜひとも中谷さんのガイドを申し込むことをおすすめします。英語がわかる方はまあ英語ガイドでもいい気もしますが、細かいニュアンスや微妙な質問はやはり日本語のほうがしやすいですし、何より日本人でありながらもう19年もアウシュヴィッツのガイドをしている中谷さんという方自体がおもしろかったです。

www.huffingtonpost.jp

3)けっこう人が多い

アウシュヴィッツに行って一番びっくりしたことは「寒い」でしたが(本当に死ぬかと思った……)、二番目にびっくりしたのは「人が多い」ということでした。「観光地」ではないものの、やはり観光客がポーランドに来てまず訪れようと考えるところのひとつのようです。あらゆる人種の人たちがわんさか並んでいました。あと、ヨーロッパ各地の子供たちの社会科見学スポットにもなっているようなんですが、わたしの行ったときはパリでテロが起きたばかりだったので、軒並みキャンセルになっており、いつもよりは空いている、と中谷さんが言っていました。

テロ対策も厳重で、A4サイズより大きい荷物は荷物預かり所に預けないといけなくなりました(これはドイツの美術館などでもそうでしたが)。

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4)すべてがそのまま残されている

 アウシュヴィッツに行って一番びっくりしたことは「マジで寒い」ことでしたが、当時の建物がそのまま保存されていてほとんどに出入りOKなのもびっくりしました。収容された人々が暮らしていた寄宿舎や、実際に人を殺すのに使われていたガス室にも入れました。銃殺刑に使われた場所などもありました。よくいろいろな映画のシーンで出てくる、収容所内に直接ひかれた線路と、収容する人々が載せられてきた列車の車両も残っていました。

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5)写真はOK

「基本どこも写真撮影OK」なのも本当にびっくりしました。中も外もオール撮影OKです。こんなにカジュアルに撮っていいんかな……と思いつつも、あの有名な「アルバイト」の看板から、収容された方々が没収された靴、カバン、メガネの膨大な山、障がいのある方から没収された義足の類、などなど撮影させてもらいながら見学しました。

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ただ、やはり遺族の方にとっては「墓地」であり、そこにあるのは「遺品」なので、フラッシュをたくことは禁止されました。また、展示のなかに「女性の収容者から刈り取られた髪の毛の山」というのがあり、これはご遺体の一部ということで、遺族感情を考慮して撮影自体禁止されていました。実際、ガイドの方に言われずとも、展示室ひとつをまるまる埋め尽くすような8,000kgの人毛にはひたすら呆然としてしまって、とてもカメラを向ける気持ちにはなりませんでした。他にも、当時収容されていた人々の顔写真だとか、人体実験風景の記録写真の展示などもあり、それについては撮影も許可されていましたが、わたしはちょっと撮影できませんでした。

 

6)体調のいいときに行かないと死ぬ

第一収容所と第二収容所をフルでまわると3〜4時間はかかるほどのボリューミーな展示、それだけの時間「負のオーラ」というか「負の歴史」に圧倒されつづけていたら、めちゃくちゃ具合が悪くなりました……。たんにめちゃくちゃ寒かったのと私のメンタルが激烈調子が悪かったのもあるのですが、やはり楽しい気分になれる場所ではないので、万人にはおすすめできないなと思いました。心身が万全のときに行くのをおすすめします……。

 

7)別に、何もない

ここまで「展示に圧倒された」だの「負のオーラに圧倒された」だの書いてきましたが、実のところ、アウシュヴィッツには本当は何もないんだ、と私は思いました。これはガイドの中谷さんも言っていたのですが、生き残りだと言っている人の証言、それによるガイドの説明がなければ、残されている収容所の建物は「ただの宿泊施設」だし、ガス室もなんだかへんてこな建物でしかないのです。死体はすべて焼却されていたし、アウシュヴィッツの設計図にはどこにも「人を殺す場所」だなんて書いていないので。

 

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アウシュヴィッツで殺された人たちの膨大な怨念が残っていて「我々はここで殺された」なんて訴えてくることは一切なく、アウシュヴィッツだと知らずにやってきた人にとっては「単なるだだっぴろい土地に建物が建ってる場所」である、という事実が、なんだか私にはいちばん怖く思えました。

そしてびっくりしたのが、当時の収容所の建物の内部に落書きがされていたこと。これは同行者が見つけて「もしかして当時宿泊していた人が書いたものかな?」と中谷さんに聞いてみたのですが、「いや、たんにやってきた人が名前とか書きつけていったやつですね〜」との答えで、衝撃を受けました……。ここがアウシュヴィッツだと知っていてなお落書きをするのすげえな……と思うと、やはりアウシュヴィッツアウシュヴィッツたらしめるものというのは、訪れる人間の意識とそこをととのえている人たちの努力でしかないんだよなあと思います。

だからこそ、「何もない」はずのアウシュヴィッツが「何か」であるということを発信しつづけるのはとても大切だし、思っている以上にエネルギーのいるところだろうなと思いました。

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中谷さんによれば、ポーランドやヨーロッパでも「アウシュヴィッツのような過去の産物にこれだけカネをかけて保存しとくのはいかがなものか」みたいな論調もあるみたいです。しかし、それに対して中谷さんはアウシュヴィッツで起きたことは、今まさに起きつつあることとつながっているという危惧を示されていました。つまり、ヨーロッパの移民問題ってことですね。

そして「アウシュヴィッツに来ても落書きするような人がいるのはもうしょうがないと思っていて、それでも10人に1人くらいは何かを感じ入ってくれる人がいるなら自分のやっていることには価値があると思っている。そしてもし何かを感じたならば、ぜひ日本の政治で行われていることに興味を持って、自分が民主政治の参加者であるということを忘れないでほしい。アウシュヴィッツは歪んだ民主主義の果てに生まれたものなのだから」ということを言っていらっしゃいました。

 

そんなふうに、何もなくてめちゃくちゃ寒くてどえらい田舎で言葉が通じなくて死にそうになるアウシュヴィッツですが、もしちょっとでも気になるな〜という人がいたら、ぜひヨーロッパ旅行の折りに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。