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飲みすぎないように文章を書く

私が家を燃やしそうになった話、あるいは「マイヤーウィッツ家の人々」の感想

私には弟がいる。2歳歳下で、昨年の4月に私より先に一人暮らしを始め、現在は立川に住んでいる。

弟と私はとても仲が悪い。というより、弟に一方的に嫌われている。

嫌われている理由はシンプルで、私が弟の世話をしたり優しくしたりということをしなかったからである。

別に、弟が嫌いだったわけでも邪険だったわけでもなく、私は子供の頃から他人の気持ちを考えるのが苦手だったので、弟の世話をしたり優しくしたりということに気が回らなかったのである。

ものすごく子供のころだが、弟がトイレに入ろうとしているときに、私もトイレに行きたすぎてダッシュですべりこみ、弟が漏らしてしまった、ということがあった。害意があったのではなく、私も本当にトイレに行きたかったのだ。まあ当時我が家にはトイレが2つあったので、上のほうに行けばよかったのだが……。

おそらく彼にとってはあれが決定的なのではなかったかと思うし、のちのち母にも「あんなに自分勝手な姉は見たことがない」と言われたりしたのだが、まあそういうインシデントが日々ふりつもった結果、嫌われていったのだ。

 

そもそも私は家族に対して世話をしたり優しくしたりということに気が回らず、自分のオタク活動とインターネット活動に一生懸命だったので、母にも再三のように「同じ家に住んでいる他人のようだ」「もっと家族のために何かしようと思わないの?」「もう少し家族と話す時間をとらないの?」と怒られ続けてきた。怒られるとその日の皿洗いや風呂洗いくらいはやるのだが、「何か」として思いつくのはそれくらいで、皿洗いや風呂洗いくらいを済ませると、自分の部屋に戻ってオタク活動に一生懸命になるのだった。

別に家族が嫌いというわけでは全然ないのだが、私にとっては、家族との時間というのもコミュニケーションコストのかかる精神力消費タイムであり、心が休まらないのである。

うちの母と弟は別に性格がやばくもいやなことばっかり言ってきたりもしないし、悪い人たちではない。しかし、もともと、母と父が離婚する前、小学校〜中学校時代の我が家のリビングが異常に殺伐としていたので、父がいなくなったからといって、「この3人が家族なんだからもっと仲良くしよう」みたいな提案にうまく乗れなかったというのもある。

私は、父のことは別に好きではないのだが、母・弟・私のなかでは間違いなく一番性格が似ているのを自覚していた。また、弟は父を非常に嫌い母に肩入れしておりちょっとマザコン気質だった。たんに母から弟に愛情がそそがれているということではなく、弟も、シングルマザーとなった母の家事をよく手伝って、買い物や料理などをしていたので、母と弟のほうの2人だけに強固な絆があるように思えたし、実際そうだったろう。

リビングの中央でひたすら「東風荘」をやり続けたり、小学校低学年の子供たちの前で映画「キューブ」を見出したりしては、母に小言を呈されていた父の血を間違いなく引いている私は、しかし私にはリビングであれこれ言われながらそこに主としてとどまる趣味もなかったので、自室でマンガを読むことを選択したのである。

社会人になってからは、インターネットも自室でやれるようになったのだが、大学生の一時期は、インターネットをやるには、リビングに出てくる必要があった。母と父の離婚後、我が家は祖父母の家と同敷地内にある築40年のアパートに間借りし、その後川口のアパートに引っ越して3人の生活を本格的にスタートさせるのだが、祖父母宅〜川口のアパートには無線LANもノートパソコンもなく、居間にあるデスクトップPCでインターネットをするしかなかったのだ。大学の課題も、居間でやるしかない。

大学1年の寒い冬の日、私は「生物適応論」だかなんだかのレポートを作成するため、家の居間のPCでひとり作業をしていた。あまりにも寒いので、私は自室からとってきた布団をかぶり、さらに電気ヒーターを足下において、カタカタとキーボードを打つことに集中していた。アパートには、私ひとりだった。

30分か1時間くらい経ったときだろうか。弟が、高校から帰ってきた。

玄関と居間のPCスペースはすぐ近くにあり、彼が「ただいま」を言わずとも、その気配はすぐに伝わってきた。それで「おかえり」と言おうとしたのだが……弟は間髪入れずに叫び声をあげた。

「ちょ、何この煙!!!」

「え???」

別に料理してないし、タバコも吸わないし、何の話……?と考えたかはよく覚えていないが、彼の言っていることがまったく理解できずに周囲を見回すと……たしかに、燃えていた。私のかぶっていた布団が。

なんと、電気ヒーターと羽毛布団が接触しすぎて、高温になった羽毛布団が燃えだし、部屋が煙と羽毛にあふれていたのだ。集中しすぎて、まったく気づいていなかった。

 

私と弟の人生で初めての共同作業により、羽毛布団の火はすぐに鎮火した。しかし、弟の私に対する嫌悪はそこで決定的となった。弟は私のことを「お姉ちゃん」と呼ぶのをやめ、「りさ」と呼び捨てすることしかしなくなった。

 

……と書くと、すげーーー険悪な家庭のように思えますが、今は仲が悪いというほど悪くはなく、仲がいいというほどよくもなく、適度な距離感でのんびり過ごしています。母の誕生日には私のほうが手配して連名でプレゼントを送るし、バレンタインにチョコをあげるとホワイトデーにちゃんとお返ししてくれるし。祖父の見舞いにも一緒に行ってるし。マジで最低限だな。

しかし最低限でよいとお互い認め合えるのは本当にいいことなんだよなと、Netflixオリジナルにしてノア・バームバック最新作「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」を観て思いました。

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タイトルのとおり、マイヤーウィッツ一家が主人公の家族コメディなのだが、このマイヤーウィッツ家の家族構成がなんとも複雑で、ひとりひとりが強烈に個性豊か。

 

ハロルド(父):彫刻家。もとは大学で教鞭をとっていたが、芸術家としての社会的評価は高くない。4回離婚して、今はアル中気味で奔放な女性モーリーンと結婚・同居している。

ダニー(長男):元ピアニスト。結婚してからは専業主夫として娘・イライザを育てていた。イライザの大学進学を機に妻と離婚することに。自分と違って社会的に成功しているマシューとギクシャクしている。

ジーン(長女):ダニーと同じ母親の子供で、ダニーの妹。一般的な会社員をしている。奔放な父と2人の弟のあいだで、かなり放っておかれて育ったことで、影が薄い。

マシュー(次男):建築コンサルタントとして一財をなし、友人とともに自分の会社を起業したばかり。ダニーとジーンとは異母きょうだいで、ハロルドに一番かわいがられて育ったが、芸術家にならなかった自分の仕事を父に認めてもらえていないという負い目がある。

モーリーン(継母):アル中気味で奔放。明るい性格だが謎の食材で謎の料理を出してくる。ジーンとは7歳しか違わない。マイヤーウィッツの子供たちに家族と思われていないことに若干イラッとしている。

イライザ:ダニーの娘。この夏から芸術大学の映像学科に進学。かわいくて明るい女の子だが、ものすごく個性的でセクシャリティに肉薄する映像作品ばかりを作っている。

 

芸術家であり大きな家長でもあった父に振り回され、傷つけられ、悩みながらも、今は大人として、それぞれ独立して暮らしていたマイヤーウィッツの3きょうだい。彼らが父ハロルドのもとに再び集うことになったきっかけが、父の回顧展の開催。しかし、父は相変わらず頑固で奔放で、彼らが良かれと思ってかけた言葉ややったことにすぐ反発し、かきみだしてくる。そのうえ「家と作品を売る」と言い出し、しかも元気かと思いきや回顧展を目前にして、倒れてしまう。

はたして子どもたちはハロルドとのわだかまりを消化できるのか? そしてきょうだい間のわだかまりもどうにかなるのか? 

 

……というのが主な筋書きなわけだけど、まあ結論から言ってしまえば、「家族だって他人」「親やきょうだいにあけられた穴を、ふさがなくとも人は生きていける」「むしろ、ふさがないことを認めるというのも大事なこと」あたりが主題の映画です。

ちなみにタイトルに「改訂版」とついているのは、過去に無印版があったわけではなく、これもふくめてタイトルなんですね。さすがノア・バームバック。ほどよくしゃらくさいな。

 

正直映画として見ると後半の構成がかなり冗長なようにも思えるのだけど、とにかく「親しい共同体の人間であるはずなのになぜかめちゃくちゃかみあわない会話」が本当にうまい。「フランシス・ハ」のときも思ったけど、ノア・バームバックはそういう微妙な細部のなんかかゆいところを描く才能がすばらしいなと思います(もっと大きなところにかゆみが残る気がしてならないが……)。

 

この作品が「映画なのか?」という点が、カンヌにおいていろいろ取りざたされたようですが、個人的には、家でダラダラ見るのに合ってる作品という意味では、Netflixオリジナルでよかったのではないかと感じてます。映画館に見に行きなよ!とまではオススメしないんだけど、普段映画を観ない人、「カルテット」あたりが好きな人、ぜひNetflixで検索してみてください。

 

 

 

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