It all depends on the liver.

飲みすぎないように文章を書く

《他者》をスパイスとする搾取性と、デート文化におけるアジア人女性フェチ

はじめに

“It’s such a privilege to be able to experience another person’s culture.”

「異なる文化に接せられるというのはある種の特権だからね」

ーーGet Out, 2017 

昨年からイギリスに留学している。最初は授業についていけなすぎてピーピー泣いていたのだが、だんだん落ち着いてきて、ちょっと人と会いたくなって、日本ではずいぶん前に浅瀬でピチャピチャして終わったTinderでもやってみるか〜とインストールし直したのが2021年11月のこと。開始直後は一晩でLikeが800件くらい来てまんざらでもなく「やたら猫やら犬やら抱き抱えてる人間多いな」「筋肉のアピールの仕方が……日本の比ではない……」とか悠々と眺めていたのだが、2〜3日、何人かとメッセージ交換し出したらしんどすぎてやめてしまった。「アジア人」「女性」という以外のあらゆるものを捨象されまくって、自意識がめちょめちょのしおしおになってしまったのだ。

具体的にいうと「Japanese Princess」とメッセージが来たので、「お、この人は眞子様について議論したいのかな?」と思って、「Are you interested in Princess Mako?」と聞いたら、「It’s you.」と返してきた人がいて即座に疲れてしまった。当初「誰にでもプリンセスという人なのかな……」と思ってしばらく会話を続けていたのだが、「いや〜British PrincessとかFrench Princessとかは絶対言わなそうだもんな〜〜」と思い至り、Likeで得た承認とマッチングで得た疲労のプラス−マイナスが即座にマイナスに振れ、三日坊主で撤退した。まあ続けていても消耗していた気がするので、秒速でJapanese Princessの人を引いてよかったのかもしれない。たいした実害は受けていないので。

そのときは、ほとぼりが冷めて時間ができたらまた再開してもいいかな……程度には思っていたのだが、授業で、世界的に有名な黒人フェミニストbell hooksの"Eating the Other"というエッセイを読んだら、《他者》のエキゾチックさに惚れるデートカルチャーの蔓延ぶりにゾワゾワしてしまった。なんとなく気持ち悪いと思ったことの核心が言語化されている! 私も荷担したり搾取されたりしている! 面白いなーと思って論文を掘ってエッセイ課題を"Dating the Other"(高度消費文化としてのオンラインデーティングと人種差別としてのアジア人女性フェチ・Yellow Fever)で執筆した結果、やっぱこのテーマものすごい掘りがいがあったな〜それにしても無理だこの世界!感が高まり、今にいたる。

……という話を先日パリに旅行したとき、現地に住んでいるフェミニストの友人Yuka Masudaに話してレポートを共有したら、とても熱くて真摯な感想をもらった。

「私は今転職活動中なのだけど、実はYellow Feverの同僚から受けたセクハラが原因で前職をやめざるをえなかったの。その相談を周りにしたら同じ経験をしている人がたくさんいたことにも驚いたし、そういえばこの前、アジア系フランス人の女友達と一緒に歩いていたときに、前から歩いてきた男性が彼女の口に海老を突っ込もうとして衝撃を受けたんだけど、彼女は『よくあること』って平然としていたのも思い出した。

フェミニズムの勉強をする中で、自分もベル・フックスなど黒人フェミニストの文章を読んで、白人優位の社会で暮らす中で差別を認識する、闘うための枠組みや知識を学んで、そして自分の中の黒人差別の意識について反省していたんだけど、黒人女性から学ぶだけでいいのかは若干気になっていて。というのはやっぱりアジア人女性が特有で受ける差別の構造ってあるんだよね。

日本の根強い女性差別、職場の『華』として扱われることが嫌で日本を出たのに、外では『エスニック』な『スパイス』として扱われるなんて、我々がこの世で人間として生きられる場所は本当にないんだな〜という何百回目かわからない絶望も感じたけど、まだまだ私たちには語るべきことがたくさんあるんだなと明るい気持ちで感じたよ。」

 

調べるとたしかにアメリカでの議論はそれなりにあるのだが、日本では紹介されていないかも……大学院生のレポートのレベルではあるけど、もしかしたら公開する意義があるのかな……と思い、日本語に機械翻訳しつつ細部を微調整したものをブログにまとめました。興味あるかたはどうぞ。(ちなみにbell hooksのつづりは全て小文字です。先日彼女がなくなったときの追悼ツイート群に対しても「みんな!今からでも間に合うから小文字でツイートし直しなさい!と呼びかけている人がいた)

補足1:読んでもらえばわかると思うが本稿は「だから海外では生きにくいよ!」という話ではない。先日こちらにいる出身校が同じ女性たちとしゃべったところ、「日本では誰と会っても、自分が高身長であることに引かれてしまい居心地が悪かったが、こっちはそういうことがない。キッチンの高さもちょうどいい……」「元々ダブルエスニシティなので、日本では、初対面の会話10分くらいマジで全部予測できた。どこの国とのハーフ?くらいならともかく、親はどこで出会ったの?まで言われるとほんと疲れてた。こっちはそういうのないからラク」などの意見もあった。あと、「どうしても白人男性と結婚したい!」系のアジア人女性もいる。その点はレポートの性質上詳しくは含められていないが、踏まえてお読みいただければ幸いです。

補足2:本稿をアイデアの一つとして、5月に行われた応用哲学会の研究大会にて、「デートアプリ文化とプラットフォーマーの倫理的責任」という研究報告を行った。個人間の倫理ではなくプラットフォーマーアルゴリズムの責任にフォーカスしたもので、そのうち論文にもなる予定です。

 

Eating the Other

Black Looks収録のエッセイ'Eating the Other'において、bell hooksは次のように述べている。

within commodity culture, ethnicity becomes spice, seasoning that can liven up the dull dish that is mainstream white culture.

商品文化の中では、エスニシティはスパイスであり、主流の白人文化という退屈な料理を盛り上げる調味料になる。

ーーhooks 1992, p.21

彼女は、西洋の現代人が非西洋(主に黒人)の文化や人々にひきつけられていく現象を批判し、それを人種差別に他ならないと捉えている。彼女が「スパイス」という言葉を使うのは、スパイスが大航海時代に西洋の冒険家たちが求めていた贅沢で、非西洋諸国の植民地化・奴隷化に駆り立てた根源であることと関連している。

本エッセイで最もあからさまなエピソードは、若い白人男性たちが、街中かつ、黒人女性であるbell hooksのすぐそばで、非白人の少女への性的欲求を誇らしげに語っていた記憶である。  

Seemingly unaware of my presence, these young men talked about their plans to fuck as  many  girls  from  other  racial/ethnic  groups  as  they  could  “catch”  before graduation.... Talking about this overheard conversation with my students, I found that it was commonly accepted that one “shopped” for sexual partners in the same way one “shopped" for courses at Yale, and that race and ethnicity was a serious category on which selections were based.

私の存在に気づかないかのように、この若者たちは、卒業までに他の人種/民族の女の子をできるだけ多く「捕まえる」計画を話していた......。この小耳にはさんだ会話について教え子たちと話してみると、イェール大学のコースを'shop'するのと同じように、性的パートナーを'shop'するのが一般的であり、そこでは、人種や民族は選択の基準となる重大なカテゴリーであることがわかった。

ーーibid, p.23

bell hooksの分析によれば、これらの男たちにとって非白人の少女との性的冒険は、彼らに新しい人生観を与えてくれるという前提に立っている。つまり、彼らは退屈な白人生活に「スパイス」を加えるために、異なる人種やエスニシティーの他者を具体的に追い求めている。

彼女の主張は、民族や人種が出現以来、スパイス、つまり「商品」と見なされてきた歴史的背景に基づく。商品のもととなるのは、差異の創出である。McClintockは'Soft Soaping Empire'(1995) と題した論考にて、ヴィクトリア朝時代の帝国石鹸会社が、広告において人種間の差異を強調していたことを分析している。こうした会社は商品を売り込む際に植民地諸国の「原始性」を喧伝し、その人種的イメージが、消費文化や膨大な数の広告を通じて、あらゆる階層の西洋人に染み込んでいったというのがMcClintockの指摘だ。McClintockはこれを「商品レイシズム」(ibid, p.209)と呼び、生物学に基づく本来のタイプのレイシズムと区別した(なおMcWhorter(2004)は、現代の”生物学に基づく”「人種」概念が18世紀に作為的に生み出されたものであり、ジェンダーセクシュアリティの形成・規制と非常に似た構造を持っていることを、フーコーの生政治・系譜学の理論を用いながら詳説している)。

bell hooksは、西洋人がOtherness(他者性)の欲望に寛容であることが、白人と非白人のコミュニティ間の不平等を維持してしまっているとも問題提起する。White Supremacy(白人優位)を放棄することなくアイデンティティの冒険を楽しむ彼らと、「新世界」に憧れて非西洋諸国を植民地化した過去の植民地主義者たちの動機に共通点を見る。どちらも、西洋近代社会における「主体」アイデンティティの行き詰まりと相関しているのだ。これは女性に対する搾取であると同時に、非欧米諸国に対する客体化を継続させている。

Jordan PeeleのGet Out(2017)は、こうした社会状況を論じるうえで注目すべき映画だ。白人至上主義のもとでの黒人への有害で醜悪な欲望を開示し、多くの黒人観客に支持された。主人公の恋人がパン屋でドーナツを選ぶ場面と、主人公の「美しい」黒人の上半身がカメラの余韻によって描かれる場面が並置されたシークエンスは、 Peeleが白人による黒人搾取を消費文化のグロテスクな一形態と捉えていることが表れている。

 

デート文化における「商品」としての人種とエスニシティ

"Eating the Other"やGet Outの批判にかかわらず、他者性をめぐる欲望や行動は、いまだに肯定的に受け入れられ、世の中に流布している。その最先端の例が、デートアプリ市場における人種・民族の超商業化だ。


オンラインデートアプリ市場が出現する以前から、この後期資本主義社会では、デートは必然的に商業化されていた。長年のパートナーとの別れを経たことを‘back on the market’(市場に戻った)という表現はすっかり定着し、親密な関係を「需要と供給」の観点から説明する書籍も多く出版されている。Eva Illouzは、著書Why Love Hurts (なぜ愛は傷つくのか)(2012年)の中で、19世紀半ば以降、写真や映画などの視覚文化の隆盛とともに、文化産業によってセックスアピールが資本の一形態に変容し、セックスやセクシャリティ、さらには人間関係の商品化が進み、人々は従来のタブーを超えてより性的関係への参加を促されたと説明する。また、心理学やフェミニズムの第二波運動が、自己語りや個人の自立においてセックスやセクシュアリティに本質的な役割を与えることで、この流れを加速させたとも指摘する。

デート自体が性的関係を商業化してきた長い歴史がある一方で、現代のデート界は消費文化の中でも特異な存在になっている。これは主に、デーティングアプリによって、一般人がより幅広いプロフィールプールからデート相手候補を ‘shop’ できるようになったからである。これらのプールは、過去の選択をフィルタリングし、慎重に設計されたアルゴリズムに基づいて推奨を行うことにより、個人の嗜好によって生成される。アプリは、ユーザーが簡単にマッチング相手を見つけ、マッチング後に素早くテキストメッセージを交換し、実際に会うことを可能にし、多くの場合、失敗したマッチング相手をブロックし、手間や説明なしに次の相手へと移ることができる。Curry(2020)によると、2020年の世界の出会い系アプリのユーザー数は2億7000万人に達し、この市場の総売上は30億ドルを超え、かつてないほど大きな数字となった。

この市場のなかで、人種とエスニシティは、「ショーウィンドウ」の重要なブランドラベルとして機能している。若年層にここ数年人気を誇るデートアプリHingeでは、ユーザーがプロフィールにエスニシティの詳細を入力することを推奨しているほどだ。

 

 

大きな方向としては、デートアプリ市場でもWhite Supuremacyはゆるがない。デートアプリがアプリのアルゴリズムと収益性のためにこうした情報の提供を促すと、ユーザーは自分にエスニシティラベルを適用し、それによって相手を選ぶ際にエスニシティを考慮に入れる傾向がある。明示的なエスニシティラベルでユーザーが選好を行わずとも、写真やプロフィールを介したLike数によるアルゴリズムフィードバックループが、人種差別を強化するという研究もある(Nader, 2020)。

人気のオンラインデートサービスであるOKcupidのビッグデータ情報から、人々は人種に関してある種の嗜好を持っており、一般的に自分と同じ人種の人を好む、黒人女性は他の女性に比べて黒人以外の男性からあまり好まれない、黒人男性やアジア人男性はすべての女性から避けられる、といったことが明らかになっている(Rudder, 2014)。Black Lives Matter運動を受け、一部のアプリは明示的なエスニシティ・フィルターを廃止した(Garel, 2020)。それでもアプリ上でプロフィール写真が公開されている限り、人々は無意識に人種や民族を基準に相手を選び続け、アルゴリズムは人種的に排他的な選好のフィードバックループを強化するだろう。

反面、まったく逆の傾向もみられる。「異人種間デート」を奨励しているアプリの存在だ。Interacial Datingで検索するとアプリランキングなどの多数のページが確認できる。Black White Interracial Datingという、そのままの名称のアプリもある。

このアプリのGoogle Playのランディングページには、'Interracial Dating: The New Enlightenment'(異人種間デーティング:新しい啓蒙)から始まる、感動的で「スパイシー」な紹介文が掲載されている。600語以上にわたる文章では、異人種間結婚が歴史的に禁止されてきたこと、それがようやく変わったこと、異文化間コミュニケーションの厄介さを丁寧に説明した後、「私たちを取り巻く世界をより広く見渡し、他人とのコミュニケーションを向上させ、日常生活を豊かにしてくれる異なる文化や習慣を学ぶ機会なのです。」と強調する。

異人種間婚姻の禁止が撤廃され、異人種間婚姻がふえていることは反人種差別の大きな動きだ。しかし、「異文化」との交流を「ゆたかさ」と結びつける言説には警戒が必要だ。これは現代のデートにおけるエスニシティの「スパイス」性をあからさまに前提としている。この傾向は、手前に述べたオンライン・デートにおける人種差別の標準的な文化と何ら変わるものではなく、bell hooksが指摘したような、白人至上主義の人種差別を背景に生み出されている。実際、白人-黒人間のデーティングにおいて「白人が望む黒人ステレオタイプ」に悩まされたという人の体験談も多い(TheNewYorkTimes,2020)。商品としての「差異」の強調は、たとえポジティブなものであっても危険をはらんでいる。

 

www.nytimes.com

 

他者性の搾取としての'Yellow Fever'

ここまでbell hooksのエッセイをもとに、植民地主義から続くストレートな人種差別の問題、そこと表裏一体となっている人種差別の一形態としてのOthernessの搾取と、現代のオンラインデーティングの関係性を論じた。白人-黒人の事例・研究が多いなかで、見逃されがちなのが、アジア人女性に対するhypersexualization(過度の性的対象化)である。

伝統的に、アジア人女性は、親密な関係におけるhypersexualizationの顕著な犠牲者である。サイードがOrientalism(2003)で述べているように、彼女たちのハイパーセクシュアルな表象は世界中で生み出されてきただけでなく、セックスツーリズム、売春、軍人の妻などのステレオタイプイメージにより循環しつづけ、必然的に現代のデートに影響を及ぼしている。

Yellow Feverとは、アジア人女性(場合によってはアジア人男性)に性的な幻想を抱く男性、特に白人男性の強迫観念を表す言葉である。インターネットで’Yellow Fever'を検索すると、アジア人女性のデートにおける不快な体験談の記事が多く見受けられた。オンライン・デートが異人種間の交際をより簡単に、よりカジュアルにするにつれて、この傾向はより深刻になっているようだ。

Jiang(2021)は、白人男性とデートするとき、自分自身ではなく、「セクシー」「エキゾチック」「従順」なアジア女性としてしか見られないかもしれないという不安について書いている。

www.popsugar.co.uk

ブロガーのlaurensmash (2012)は、Yellow Feverの男性との数々の具体的な体験を詳述し、ありがちな体験TOP5を紹介している。  

persephonemagazine.com

I’ve been told on multiple occasions that I could make a living in porn because I am an Asian woman with big breasts. Every time it was meant as a compliment. …… I opened the laptop of ANOTHER ex to check my email, and I saw that he had searched “asian” on a porn site and was halfway through a video with a bunch of white guys ejaculating on an Asian woman’s face.

私は何度も、胸が大きいアジア人女性だからポルノで生計を立てられると言われたことがある。毎回、それは褒め言葉の意味合いだった。…メールをチェックするために別の元彼のラップトップを開いたら、彼がポルノサイトで「アジア人」と検索して、アジア人女性の顔に大勢の白人が射精しているビデオを途中まで見ているところだった。(laurensmash 2012)

前項で示したように、デート文化やデーティング市場全体における民族的選好の排他的傾向はメディアでしばしば論じられるが、Yellow Feverの問題点についての報道は少ない。白人至上主義が黒人に与える有害な影響に比べ、アジア人に投影されるそれは過小評価され、認識されない傾向にある(これはCOVID-19以降のアメリカで、アジア人へのヘイトクライムが70パーセントも増加したことに対する問題提起が少ないこととも関連するだろう)。Yellow Feverを深刻な人種差別として認識することは重要であり、bell hooksステートメントもこの問題に適用できると私は考えている。

実際にこの議論を取り扱っている研究を調べたところ、哲学の分野で、いくつかの論文が見つかった。ここでは、Mere Preference Argument(”単なる好みの問題”論)に反論するかたちで展開されている、Zheng, R. (2016) ‘Why Yellow Fever Isn’t Flattering: A Case Against Racial Fetishes’,を中心に紹介する。


Yellow Feverの問題やbell hooksのいう「スパイス」化は、一般には大きくracial fetish(人種フェチ)という言葉で括られ、フェチであって差別ではないという擁護が展開されている。代表的な論が、Mere Preference Argument(MPA)だ。

1. There is nothing morally objectionable about sexual preferences for hair color, 
eye color, and other non-racialized phenotypic traits.
2. Preferences for racialized physical traits are no different from preferences for 
non-racialized phenotypic traits. Therefore,
3. ‘Mere’ preferences for racialized phenotypic traits are not morally objectionable

1. 髪の色や目の色など、人種に関係ない表現形質に対する性的嗜好には、道徳的にやましいところはない。

2. 人種的身体的特徴に対する嗜好は、非人種的表現形質に対する嗜好と何ら変わらない。したがって、

3.人種化された表現形質に対する「単なる」嗜好は道徳的に反対できるものではないーーZheng, 2016, p.402

 

理論的には、人種フェチの定義から精神的・文化的ステレオタイプを外し、外見だけに範囲を狭めることで人種主義を否定することは一見妥当であるように見える。しかし、イメージや言説によって生み出されたステレオタイプと、外見の印象は本質的に不可分であり、外見の好みを人種的ステレオタイプと区別することは不可能である。Zheng(2016)は、個人の人種フェチと潜在的な人種偏見との間に一定の関連性を確認することはできないが、個人の人種フェチが社会における人種的ステレオタイプを増幅させていることを強調する。そのため、Yellow Feverのような人種フェチは、単なる嗜好として免責されないというのがZhengの主張だ。


ここに、オンライン・デートの文脈を加えると、もうひとつの楽観的な擁護論が存在する。それは
昔と違って、今は誰もが等しく人種フェチを楽しむことが保証されているし、不本意な、あるいは同意のない性的関係を拒否することもできるというものだ。

多くのアジア人女性が異人種間関係、特にオンライン・デートにおける白人男性との関係を賞賛していることは否定できない。デーティングアプリ市場では自分と同じ人種を好む傾向があるが、アジア人女性はアジア人男性よりも白人男性を好む傾向がある(Rudder 2014)。そのような異人種間の関係に積極的に参加する非白人が少なくないのは、Black White Interracial Datingのようなアプリが成り立つことからもうかがえる。

デーティングアプリのおかげで「スパイス」があらゆる人種に安全に提供されていると考えると、現代のデーティングにおける人種フェチの問題は、bell hooksステートメントの文脈とはずれてしまう可能性もあるかもしれない。実際、デーティングアプリは、誰にでも平等に幸せな機会を提供し、自分に有利な関係に参加できるように見える。

しかし、こうした平等は偽物である。なぜなら、白人による他者への愛着と、他者による白人への愛着は明らかに異なり、後者は「スパイス」と呼べる人種フェチではなく、白人至上主義や主流派の性的人種差別の結果だからである。白人女性も含めてあらゆる人種の女性が白人男性を好み、黒人男性を避けるという事実は、この選好が西洋支配の植民地的言説によって生み出されたものであることを明確に示している。 したがって、白人が有色人種を好むことと同等に論じられるべきものではないし、異人種間の交際において平等を保証するものでもない。

実際、双方当事者が異人種間の交際を希望している場合でも、ステレオタイプのストレスは有色人種にのみ重くのしかかる。Zhengは、「Yellow Feverに対処しなければならないことによって生じる追加の心理的負担は、それ自体が人種的不利の一形態を構成する」(2016、407頁)と述べている。アルゴリズムのもとで白人至上主義に操られてきたオンライン・デートにおいて、有色人種の偽りの平等と自由は彼らを搾取し、客観化された「スパイス」にしてしまうのである。人種的フェティッシュが人種差別ではない、あるいは人種差別を克服することができるということはありえない。人種フェチを肯定的に捉える限り、偏った関係や望まない性行為の強要に抗えない人への抑圧を産む。

他人の文化を体験できることは特権性を帯びているが、保証される権利ではない。この超商業化社会で、人々がより搾取性の低い、親密な関係を享受できることを願う。

 

 

References

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